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『美川浪漫劇場』第2回:可愛さあまって憎さ百倍
2005年11月09日 (水) | 編集 |
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――もう、信じられない!
ロマンの顔にはそうはっきりと書いてある。
こんな機嫌の悪い時のロマンに近寄ることができるのは、少数の例外を除いてまずいない。
ロマンが不機嫌な理由は火を見るより明らかだ。なぜなら今回の親善試合、例の本命の――ロマンの最愛の選手は召集されていない。だが今回の対戦相手は親善試合といえども因縁のイングランド、またもや仮病をつかって召集を拒否するわけにはいかないし、代表ではキャプテンをつとめるチームメイトのソリンの面子を潰すことになる。だがしかし、今回の遠征、気乗りしない理由が実はもう一つあった――。

「うん、大丈夫。平気だよ、もう歩けるようになったし――。うん、わざわざ電話くれてありがとう。がんばってね、そっちも。それじゃあ、また」
 ――フォルラン?一体誰とそんなに嬉しそうに話してるの?
 いや、ロマンには分かっているのだ。フォルランの電話の相手も、そして笑顔の理由も。
 でもフォルランはこの間のベンフィカ戦で怪我をした。肉離れで三週間の戦線離脱――、ウルグアイ代表としてのプレーオフ、そして何より古巣であるマンチェスターユナイデットとの試合が待っているのだ。なぜこんな時に限って――、もちろん怪我で試合に出られない苦しみはロマンには痛いほどよく分かる。そんなフォルランの悲しげな表情は見たくないが、それ以上に試合が終わった後、「元・同僚」と楽しそうに会話するあの表情もまた見たくないのだ。――ロマンの思考はいつもここで停止する。矛盾している。それは自分でも分かっているのだが、この複雑な思いを抱いたまま、自分はイングランドに行かねばならないのかと思うと……ロマンは憂鬱そうに深いため息をついた。

 そうこうしているうちに、出発の時間となってしまった。とりあえず、留守番のフィゲロアに様子をメールで報告するように言いつけておこう。
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『美川浪漫劇場』第1回:バレンシアダービーの夜
2005年11月06日 (日) | 編集 |
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「おーい、ロマン!」
 ロマンが苛立たしそうに振り返るとそこには同郷の先輩、ゴールキーパーのアボンダンシェリを除いて現役代表選手の中では一番のベテランであり、世界屈指のディフェンダーとも称される――つまり味方であればこれほど心強い仲間はいないが、ひとたび敵に回すととんでもなく厄介な相手――ロベルト・ファビアン・アジャラの姿があった。
「いやー負けちゃったよ、完敗だ完敗。ここは素直に『おめでとう』と言っておこう」
 アジャラはそう言って、先程まで敵味方に分かれて戦っていたとは思えぬほど人懐こく、そして豪快に笑い飛ばすのだった。
 だが、思わぬ足止めに他意はないとは分かっていながらも、ロマンは逸る気持ちを抑えるのが精一杯だったのだが、そんなロマンのそわそわした態度を無視するのか、あるいは気がついていないのか、アジャラは構わず話を続ける。
「ところで、今日ソリンが欠場したのは怪我なのかい?今度のイングランド戦には間に合うのかな?」
「……どうでしょう、うちも――ビジャレアルも、チャンピオンズリーグとの兼ね合いでいろいろやり繰りが大変ですからね」
「そうね、今回はあくまで親善試合だからね。まあ無理することはないけど……。それよりもプレーオフに出なきゃいけないウルグアイの選手、ほら何て言ったっけ、おたくのパツキンストライカー……」
「……フォルランのことですか?」
 ロマンの黒々と逞しく濃厚な眉が、ほんの一瞬だけつり上がる。
 ――フォルラン。
 正直言って、その名は今のロマンにとって一番の禁忌<<タブー>>であった。ロマンのチームメイトで、昨シーズン25ゴールを挙げ見事得点王に輝いたディエゴ・フォルランは、今シーズンなかなかゴールを決めきれず、ようやくここ最近になって調子が上向いてきたところだったのだが、三日前のチャンピオンズリーグ、ベンフィカとの試合中に怪我を負ってしまったのである。
 大切か不要か?――という相対的な問いにはSiと即答できても、『一番』大切なのは誰か?――という絶対的な問いに、ロマンは答えを出せずにいる。否、出したくない、というのが本音であろう。それでは博愛主義と自称する例の――ロマンの最も苦手な男と変わらないではないか、という自制心という名の防御作用であった。
「そうそう、パツキン。パツキン。彼がいないと代表だけじゃなくってチームも痛いんじゃない?」
「……まあでもその分、うちでは今フィゲロアが奮起してますからね」
「そうねそうね、フィゲロアね。いやぁ今日はフィゲロアにやられちゃったよ。ハッハッハ。ここは素直に褒めてやらないと」
「じゃあ直接、本人に声かけてやってください。きっと喜ぶと思います。……それじゃ自分は急ぐのでここで失礼」
 ロマンは、背番号8のついた黄色いユニフォームを握り締め、先輩を押しのけるようにして自分のチームとは逆方向のロッカールームへ足早に去っていった。そう、もちろん今日の対戦相手、バレンシアの21番とユニフォーム交換をするために――。
「……相変わらず、わっかりやすいヤツぅ」
 アジャラのさっきよりも数段豪快な笑い声が、エル・マドリガルの廊下にこだました。

 そしてすぐに携帯電話を手にし――、誰にかけたのか、そして何人にかけたのかは詳らかでないが、翌日には本人を除くアルゼンチン代表はみなこの話を知っていたという後日談はまたの機会に譲るとして、バレンシアのロッカールームへと急いだロマンはというと……。
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